つくる会法案についてのQ&A



Q1.中絶って法律違反なの?

Q2.母体保護法ってなに?優生保護法が改訂されて
できた法律だそうですが

Q3.なぜ母体保護法ではいけないの?

Q4.中絶は胎児を殺すことだから、女性に産むか産まないかを
選ぶ権利があるという考えには、すごく抵抗があるのですが?

Q5.「胎児に障害があるとわかったときには中絶できるという条項
(胎児条項)が必要だ」という意見がありますが?

Q6.「法律案」では、なぜ、避妊や永久避妊手術を重視しているの?

Q7.「性と避妊の相談室」って、どんなものですか?

Q8.何らかの障害のある女性が妊娠、出産することに対して
「法律案」はどうとらえていますか?

Q9.「法律案」では、避妊や中絶を無料にする、
あるいは公的補助を得られるようにすることは考えていないのですか?

Q10.法律はどうやって実現させるの?



女(わたし)たちは法律をつくろうとしています
 ●1996年6月、優生保護法が改訂されて母体保護法になりました。
 女たちは長い間、堕胎罪と優生保護法のもつ問題点を指摘し、2つの法律の廃止を求めてきました。しかし、この改訂は、女たちの声を何一つ聞くこともなく、男性の国会議員を中心に一方的に行われたものでした。政府の姿勢も同様でした。
 「今後は、上からでなく、わたしたち市民の側から、自分たち女の望む法律をつくりたい。」こういった思いを持った女たちが、1996年8月に「からだと性の法律をつくる女の会」を発足させ、女のからだにとって、何が必要なのかを検討してきました。

  ●将来的には、女のからだと性に関する健康を包括的に保障する法律が必要だと考えます。
 しかし、一つの法律ですべての問題を解決するのは不可能なので、この会ではまず、避妊・永久避妊手術(私たちは「不妊手術」をこのように呼びます)・人工妊娠中絶に絞り込んだ法案作成をめざすことにしました。1997年11月に最初の法律案をまとめ、さらに検討を加えて、2001年3月、「避妊および人工妊娠中絶に関する法律(案)」(以下、「法律案」)を作成しました。

  ●この「法律案」の実現と同時に、わたしたちは堕胎罪と母体保護法の撤廃をめざし、「胎児条項の導入」に反対します。




Q1.中絶って法律違反なの?

A:そうです。
日本には、いまから100年以上も前の明治時代に公布された「堕胎 (だたい)罪」(堕胎=人工妊娠中絶のこと)というのがあって、なんと今でもまだ 法律として生きています。
堕胎罪に該当すると、中絶した本人は1年以下、施術者は 2年以下の懲役に処せられます。


●つまり、「女は妊娠したら必ず産まなければならない、中絶
したら牢屋行き」というのが今なおこの国の原則なのです。
●戦前の日本は「産めよ殖やせよ」政策で、海外侵略のための兵隊を
たくさん生産させるために、中絶はおろか避妊すら禁止されていました。
でも、警察に知られたら監獄行きだとわかっていても、
やむにやまれぬ事情で中絶する女は後を絶ちませんでした。当時の新聞には
通経剤(月経を起こさせる薬)と称した堕胎薬(効果のほどは疑わしかった)の
広告がときどきみられます。お金のある階級の女性たちはひそかに手
術をしてくれる医者を捜しだしましたが、それができない庶民は
危険な民間の堕胎方法しかなく、命をかける中絶を実行していました。
1920年代後半には年間500件以上が堕胎罪として裁かれました。
ひそかに中絶手術を受けた女性と、施術者である医者や産婆が起訴され、
服役したのです。ところが、妊娠のもうひとりの当事者である男性は
いっさい罪にならないという法律なのです。
●戦前の堕胎事件でもっとも有名なのは女優の志賀暁子が中絶した事件でした。
彼女は大女優へと大きく飛躍する時期に予期しない妊娠をし、
産婆に中絶を依頼。かなり高い手術代を払った上にその産婆の知り合いの
暴力団員にゆすられ、その上、1年以上もたって警察に知られて起訴され、
服役したのでした。ときは1935年、日中戦争がすでに始まっていました。
マスコミはスキャンダルとしてこぞって大きく扱いました。
「中絶した女はこうなるのだ」といわんばかりの見せしめ的な事件でした。
しかし、相手の男性はいっさい責任を問われることはありませんでした。
●敗戦を経て成立したのが「優生保護法」です。この法律は2つの目的を
もっていました。一つは「不良な子孫の出生を防止する」ことで、
障害者の人権を無視した差別的なものでした。しかも、戦争中の「国民優生法」
よりも優生思想がさらに強化されたものでした。もう一つは「母性保護」で、
これによって条件付きで中絶が合法化されました。ですから、
これでなんとか女たちはヤミ中絶で命を落とす危険から
救われてきたという面はありました。
●条件付きで中絶が合法化されたので、その存在が忘れられている
「堕胎罪」ですが、問題は中絶の許可条件がせばまれば、
この堕胎罪がすぐに力をもつようになるということです。
「中絶禁止派」は、「胎児の生存権」を楯に「もうすでに日本は
経済大国なのだから経済的理由という許可条件はいらない」と
経済的理由の削除を訴える動きをこれまでに何度もおこしています。
もしそれが通った場合、この刑法・堕胎罪がある限り
人工妊娠中絶はたちまち非合法になってしまうのです。
●ですからわたしたちが「新しい法律をつくりたい」というときに、
同時に必ず達成したいのが、この「堕胎罪」の廃止なのです。


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Q2.母体保護法ってなに? 優生保護法が改訂されてできた法律だそうですが

A:母体保護法は、人工妊娠中絶と不妊手術の許可条件について定めてある法律です。
ですから、堕胎罪が存在している現状で女性が中絶手術を選べるのは、母体保護法の条件にあてはまった場合に限られます。

●この法律の最大の問題点は、旧優生保護法に
あった「不良な子孫の出生を防止する」という優生思想が削除されたものの、
予期しない妊娠をしたときに中絶できるのが、
あいかわらず「妊娠の継続又は分娩が身体的又は経済的理由により
母体の健康を著しく害するおそれのあるもの」
(第14条1項)と「強姦による妊娠」(同2項)と
いう理由に限られていることです。


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Q3.なぜ母体保護法ではいけないの?
母体保護法は、優生保護法から「優生」という差別的な部分をなくして作られたのだから、
よい法律ではないのですか?

A:わたしたちが新しい法律をつくろうとしているのには、
つぎの理由があります。

●@主体は誰でしょうか? 母体保護法では、人工妊娠中絶も、不妊手術も、
必要かどうかを医師が認定して、本人と配偶者の同意を得て行うことが
できることになっています。つまり、主体は本人ではないのです。
妊娠し中絶手術を受ける、当の女性自身の自己決定権はなにも考えられていません。
 現在では事実上は、中絶を望む女性がそれを断わられることは
ほとんどありませんが、法律によって中絶を許可する条件が
定められているということは、女性のからだが国の管理下にあるということを
意味します。ここに、女性のからだを通した“子どもの数と質の管理”が
入り込む心配(たとえば中絶を禁止しようという動き《Q1参照》や
胎児条項の導入《Q5参照》)があります。
 「母体保護法」・・・母となるからだだから保護してやろう・・・という法律の名称は、
その管理のしくみをよく表しています。女性のからだは母親になるから保護されるわけでは
ありません。避妊、永久避妊手術、人工妊娠中絶が女性の意思で選択できることは
重要な基本的人権の一つです。
 私たちの「法律案」ではこのことを確認して、これらを個人の意思に
もとづいて行われるべきこととし、主語を個人にしました(前文、第1条、第3条、第5条)。
母体保護法では不妊手術や人工妊娠中絶を行う主語が医師になっています。

  ●A中絶手術にあたっては、配偶者つまり妊娠させた男性の同意が
なければならないことも問題です。自分のからだのことなのに、
男性の同意が必要なのです。現実に配偶者の同意が得られず
中絶できなかった女性もいます。強制された性行為で妊娠さ
せられた場合であっても、法律上は、加害者に中絶の同意を
もらわねばならないことで、女性は二重の苦痛を受けています。

  ●B母体保護法第28条では、妊娠・分娩が母体の生命に危険であるか、
分娩ごとに健康度を著しく低下させるおそれがある場合以外の理由で、
生殖を不能にする手術を行うことを禁止しています。
女性だけでなく男性の永久避妊手術も
本人の自由意思ではできません。


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Q4.中絶は胎児を殺すことだから、女性に産むか産まないかを選ぶ権利があるという考えには、すごく抵抗があるのですが?

A:●もし「中絶をどう思うか?」と10人の女性にきいたら
きっと10の答えが返ってくるでしょう。私たちは個人の
考え方や生き方を大事にしたいからこそ、中絶を選ぶことも
選ばないことも自由である法律を求めています。
 どんな理由であっても、たとえば障害があるからといって産んではいけない、
あるいはたとえば結婚しているからといって産まなければならない、
ということを法律が強制することに反対なのです。
 妊娠・出産・中絶は、女性のからだにおこるできごとです。
女性が自分の人生とからだに対して誰からも、どんな形であれ
強制されないことは基本的人権の一つであり、国連文書に
明記されているリプロダクティブ・ライツの真意です。

 ●明治時代につくられた現行刑法の堕胎罪は、
日本政府が1985年に批准した女性差別撤廃条約、
第2条g号「女性に対する差別となる自国のすべての刑罰規定を
廃止すること」に反しています。中絶の場合、
女性と施術者(医師など)だけが罰せられることになっていますが、
これは妊娠の結果を女性のみに押しつけることを正当化していると
言わざるを得ません。
 
●また、1995年の第4回世界女性会議で採択された北京行動綱領、
106項kには「違法な妊娠中絶を受けた女性に対する懲罰措置を
含んでいる法律の再検討を考慮すること。(総理府仮訳)」とあります。
日本政府は同行動綱領を留保なしにコミットメント(誓約)しながら、
同行動綱領に対する国内法(堕胎罪)の優先という異例の表明を行っています。
国際的な女性の人権の確立と尊重という潮流に、あくまで
反対する姿勢を打ち出しているわけです。
したがって、日本の女性政策の柱である「男女共同参画基本計画
(2000年12月)」でも堕胎罪の問題には触れられていません。
 また、南北問題にもつながりますが、映画「中絶〜北と南の女たち
(1984年カナダ)」などにも描かれているように、
世界中でまだ中絶が違法であるためにいわゆる「闇中絶」で多くの女性が
命を落としていることも忘れてはならないのです。安全で合法な中絶を
手にすることこそ、女性の真のリプロダクティブ・ライツ
(性と生殖に関する権利)の確立につながるでしょう。


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Q5.「胎児に障害があるとわかったときには
中絶できるという条項(胎児条項)が必要だ」という意見がありますが?

A:私たちは「胎児条項」に反対です。 私たちが求めているのは、 産む産まないの自己決定権であり、 生命の質の選別を行うことではありません。

●確かに現在の社会は、障害児にとっても、
障害児を産んだ女性にとっても生きやすいものではありません。
しかし「障害をもつ」ことが不幸なのではなく、「障害者を
受け入れない社会環境」が、障害者を生きづらくしているのです。
また「子産み、子育ての責任は母親だけにある」という考え方が、
障害児を産んだ女性に、大きな負担を強いているのです。
この社会環境や考え方の上に胎児条項を設けてしまうと、障害者や
女性の人生は今まで以上に生きにくいものになってしまいます。
 人類には、一定の割合で障害をもつ子どもが産まれてきます。
私たちがめざすのは、たとえ障害をもって生まれてきても、
差別や不利益を受けずに、安心して生きていける社会です。


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Q6.「法律案」では、なぜ、避妊や永久避妊手術を重視しているの?

A: ●中絶が自由にできさえすれば、
産む産まないの自己決定権が保障されるわけではありません。
 私たちが法律をつくる目的は、誰でも自分のからだについてよく知り、
自分で決めることができるようにすること。
産めないときや、予期せぬ妊娠を防ぐためには、より確かな避妊の情報と
方法が入手でき、実行できることです。
だから、私たちの「法律案」ではまず避妊を重視しました(第2章)。

 ●からだと性についての情報やカウンセリング、
サービスを得ることのできる「性と避妊の相談室」(Q7参照)を、
国と地方自治体が設置することも重要です(第4章)。
また、民間からの参加ができるように考えています(第7条)。


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Q7.「性と避妊の相談室」って、どんなものですか?
相談室に行ってしかられたり、お説教されたりしませんか?

A: ●10代〜20代の若い女性たちの多くは
避妊や中絶に関する知識を、雑誌や友達からの口コミで得ています。
一応の知識はあるけれど、本当にそれが正確なのかどうか、また自分の
状況に合った情報や、今すぐ必要としている情報を得る場所がないというのが
最大の悩みです。これは実は、30〜40代の女性たちでも同じです。
漠然とした知識しか持てなければ、自分に適した避妊法を選んだり、
意図しない妊娠を防いで自分のからだを守ることはできません。
 諸外国では、避妊や中絶、HIV/エイズ、その他の性感染症など、
性やからだに関わる情報や避妊手段を提供したり、相談ができる場所が
地域ごとに数多くあります。
それらは「ウイメンズ・クリニック」や「家族計画センター/クリニック」と
呼ばれており、多くは公的な補助金で運営されています。
とくにヨーロッパでは1970年代の人工妊娠中絶合法化とともに、
このような情報・相談サービスを行う半公的機関が数多く設置されました。

 ●私たちの「法律案」に盛り込んだ「性と避妊の相談室」は、
性と生殖の権利に基づいて、各人が自らの心とからだを守るための
自己決定権を十分に行使できるために設置するものです。
ここでは避妊、妊娠、人工妊娠中絶などを含む性やからだに関する
幅広い情報の提供、カウンセリングなどを行います。どんな人でも、
どこに住んでいても、情報とサービスにアクセスする権利が
保障されるように、公的補助を得てこのような機関が各所に
設置される必要があります。
 相談者が主役であり、本人の選択をサポートするためのものですから、
「女性は子どもを産むべきだ」とか「中絶は悪だ」とか、
あるいは特定の性のあり方を非難したりするような道徳的断罪や
価値観の押しつけが行われてはなりません。また障害をもつ人の
性と生殖の権利が奪われたり、障害を持つ子どもの生存権が
否定されるような優生思想を排除し、人権を尊重した情報提供・相談業務が
行われなければなりません。またそのような相談活動が行われるよう
市民が見守り働きかけていく必要があるでしょう。

 ●たしかに「女は子どもを産んで一人前」とか、
「障害のない健康な子どもでなくては」という偏見は、法律くらいで
変わらないかもしれません。法律の運用、相談室のあり方などは、
基本的人権が守られていくよう、私たちからの注意と働きかけを続けましょう。
そのようにして世の中は変わっていくのだと思います。性別や障害のあるなしなどで、
差別や不利益を受けない社会が、めざすゴールです。

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Q8.何らかの障害のある女性が妊娠、出産することに対して
「法律案」はどうとらえていますか?

 A:● 障害のある女性自身が決めます。誰もが意思をもっています。その人の意思に反して中絶、
永久避妊手術を行うことは許されません。どんなに重い障害をもっていても、
生きているということはそれだけで意思のある人間なのです。
実際に重い障害をもって、子どもを産み育てている女性はたくさんいます。
社会はそういう女性たちを、支援すべきなのです。「法律案」は
その観点に立って、障害をもつ・もたないにかかわらず、すべての
女性のからだと性に関する自己決定を保障するものです。


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Q9.「法律案」では、避妊や中絶を無料にする、
あるいは公的補助を得られるようにすることは考えていないのですか?
 

A:●私たちが中絶をしようとするとき、産婦人科に行って妊娠を確かめ、
手術をします。それは明らかな医療行為ですが、
日本では、いわゆる「病気」でなければ健康保険は使えません。
ですからとくに未成年など収入のない人が中絶しようとすると大きな負担になります。
その費用が出せないため、中絶可能な時期(現在は満22週未満)を
過ぎてしまい、中絶できなくなる例もあります。

 ●世界的にみると、避妊情報の提供にとどまらず、避妊や中絶の
費用に対し公的補助を行い、女性の選択の自由を広く
保証している国が、西欧には数多くあります。

  ●ところが日本では、たとえ健康保険が使えても、保険制度は
世帯が単位であって個人が単位ではないので、扶養されている人の場合は
中絶の事実が親や夫など扶養者に知られてしまう可能性があります。
また健康保険では会社にプライバシーが知られてしまうこともありえます。
その意味では避妊や中絶に公的保障が適用されるまでには、
日本の健康保険制度の改革などが必要です。
 それ以前に、たとえば市町村など自治体が、避妊や妊娠や中絶を
希望した人に無料診察券を出す、などのやり方で、実質的に
避妊や中絶費用の個人負担を軽くすることも、方法としては
可能ではないかと考えられます。

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Q10.法律はどうやって実現させるの?

A: ●法律をつくるのは国会の仕事です。
国会議員の要請で、衆議院か参議院の法制局で法案としての形を
整える作業を経て、20人以上の国会議員で、議員立法として提案できます。
 ●国会議員と連携しながら、国会の外でも
この法案についての議論を広げる必要があります。
世論を動かし、運動を盛り上げて政府と国会議員に働きかけましょう。