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一緒に考えてください!
障害者差別禁止法 要綱案」


 「障害者差別禁止法 要綱案」については、SOSHIRENニュース197号(02年3月5日発行)でも触れたことがあります。今回はその後の経過と、現在の論点をお伝えします。たくさんの方に、一緒に考えて意見を出して欲しいと思っています。

 「障害者差別禁止法 要綱案」は、DPI日本会議などで構成する「障害者政策研 障害者差別禁止法作業チーム」が提案しています。障害者政策研究集会全国実行委員会の「基本政策プロジェクト・チーム」が、1998年から、障害者の権利確立、障害者への差別禁止を法的に明記することを話し合ってきたそうです。私たちがそれを知ったのは、2001年の夏でした。
 01年12月8日に開かれた第7回障害者政策研究全国集会、全体会シンポジウムで障害者差別禁止法について討論がありました。その頃、弁護士の東俊裕氏が作った「障害を持つ人に対する差別禁止法概要(私案)」(*1)が公開されていて、その第二章 出生 の中に「胎児に対する障害を理由とした堕胎は、これを禁止する」とありました。
 "恩恵的に与えられる福祉"ではなく、障害をもつ人を主体として人権の確立を目指す、そういう法律の必要性はよく分かるし、女性をも苦しめる優生思想を無くすことにも有効だろうと思います。でも「出生における差別禁止」は、女性にとってたいへんに気がかりでした。シンポジウムを聞きに行った私は、障害者政策研の案にもこの内容が入るのならば、女の運動と話し合う機会を作って欲しいと、集会の合間に東さんと障害者政策研のメンバーに伝えました。
(*1)「福祉労働93号」 現代書館

■政策研「障害者差別禁止法要綱案」と、SOSHIRENからの質問

 話し合いの機会はなかなか得られませんでしたが、02年7月、政策研ホームページ宛にSOSHIRENから質問を送りました。
 質問は、政策研の「障害者差別禁止法要綱案」【第U章】の「9 出生」の項に対してのものです。ホームページで読むことができる「要綱案」のその部分は、次のようなものです(*2)。
(*2)本も出ています「当事者がつくる障害者差別禁止法」現代書館


障害者差別禁止法 要綱案             (2002.11.27現在)

【第U章】 障害をもつ人への差別禁止と権利に関する基本事項

U−9 出生

 1 出生に関する権利
(1)障害をもつ人は、出生において差別を受けない権利を有する。
(2)妊娠、出産に際し、いかなる障害をもつ胎児も生きる権利を有する。

 2 出生に関する差別禁止
(1)すべての人は、妊娠に際し、障害を排除するための治療・検査を強制されてはならない。
(2)すべての人は、胎児に対して、障害を理由とした中絶をしてはならない。

 3 配慮義務
国、地方公共団体は、障害をもつ人の出生にあたり、その親に対して、妊娠、出産、子育てに関する必要な援助に関する施策を実施しなければならない。
[補足説明]
 本事項については、障害の有無によって命が価値づけられることを否定することが、基本的な考え方です。「産む産まないは女性が選択する」という主張を否定するものではありません。産む産まないを、それぞれの個人が自己決定することは保障されねばなりませんが、それは、男女の産み分けや、障害をもつ胎児の排除を自己決定することとは、異なります。
 産むと決定することが、本人及び親への不利益や非難につながってはならないし、生きている障害をもつ人への差別につながる論理が生まれてはなりません。
 障害は、その存在自体が問題ではありません。障害をもつことによって生じる生活上の困難さが問題なのです。人生の出発点を、障害を理由として、一方的に閉ざされることに対して、強く異をとなえます。



*これに対するSOSHIRENの質問は、要約すると次のようなことです。
  • 1.の(2)は、法律上、胎児を生まれている人と同等に見なすということなのか?
  • 2.の(2)は、障害をもった胎児の中絶だけを禁止し、それ以外の中絶は認めるのか?
    その場合、どうやって見分けるのか?出生前診断が必要になるおそれはないか。
  • 「胎児の障害の有無で中絶の可否を決める」という枠組みを法律の中に作ることは、問題ではないのか?
  • 具体的にどのように「禁止」するのか。堕胎罪・母体保護法を改正するのだろうか?
    あえて行った医師や女性は何らかの処罰を受けることになるのか?

■ヒアリングが実現 交わされた意見

 この質問に03年6月に東氏から返事があり、その後、障害者政策研として「要綱案」に対するヒアリングを行うので参加して欲しいと、呼びかけを受けました。ヒアリングは03年9月28日に開かれ、障害者差別禁止法作業チームから6人、SOSHIRENから3人が出席、3時間近くの話し合いができました。

*ヒアリングで、SOSHIRENの3人は、02年7月の質問に加えて次のことを言いました。
  • 法的枠組、それも「差別禁止法」の中に「出生」を盛り込むことには賛成できない。
  • 「要綱案」U−9 は、女性の生殖における権利を制限し、処罰するように読める。また、「胎児は〜権利を有する」は、胎児を法律上の人権主体とし見なして中絶が殺人罪を構成するとも解釈できる。作業チームにはそこまでの意図はないのだとしても、いま海外にも国内にもリプロダクティブ・ライツを歪曲して非難し、後退させる動きがあり、その中でこの案が議員や法制局を経て国会に持ち込まれれば、途中で解釈が変わるおそれがある。たいへんに不安だ。
  • 障害者への差別と排除が根元の問題だが、現状では、障害児が生まれることはあたかも母親に責任があるように女性を責める視線があり、また女性自身も障害をもつ子を産んだということで自分自身を責めている。この要綱案は、障害児を産まなかったという理由で女性を責めることになってはいないか。女性は、障害児を産んだということで責められ、障害児を産まなかったということで責められ、ますます追いつめられることになる。
  • 妊娠した女性にとっては、必ずしも自分のからだと胎児を分けて考えられない。法律で胎児を主体とすること自体になじめない。女性(妊婦)と胎児を対立させる見方には、そもそも納得できない。
*これに対して、作業チームからの意見は、およそ次のようなことでした。
  • 「障害者の権利法」にするか「障害者差別禁止法」にするか、議論をした上で、作業チームは「差別禁止法」を選択した。
  • 女性の生殖における権利を制限したり、処罰することは意図していない。胎児を法律上の人権享有主体とは見ておらず、中絶が殺人罪を構成するとは考えない。堕胎罪、母体保護法の改訂も考えていない。
  • 作業チームにとって、「差別禁止法」から「出生における差別の禁止」をはずすことは考えられない。どういう言葉なら受け入れられるか、SOSHIRENから対案を出して欲しい。

■SOSHIRENの「対案」

 そこで、10月13日に開かれる作業チームの会議に向けて、SOSHIRENは次頁のような「対案」を送りました。


障害者政策研 作業チームの皆様
2003年10月11日
SOSHIREN女(わたし)のからだから
新宿区富久町8−27ニューライフ新宿東305ジョキ内
電話/FAX03−3353−4474
 「障害者差別禁止法」の枠組みで胎児や人工妊娠中絶の問題を取り扱うことには、私たちはあくまでも反対です。出生における障害者差別を無くすという主旨を表現する意味で、「出生前診断」という項目として考えました。これを、対案として提案します。補足説明に書かれた、「『産む産まないは女性が選択する』という主張を否定するものではありません。」も、これで要綱案に反映できると思います。

 【補足説明】では、[ ]内が対案として修正した部分です。

■第二章 U−9 出生前診断

1 出生前診断

(1)障害をもった子どもの出生を防止する目的で出生前診断を行うことは、障害者に対する差別である。
(2)国および地方公共団体ならびに医療従事者、施設職員、教育関係者等は、なんびとに対しても、出生前診断を強制してはならない。
(3)医療従事者は、障害をもつ子どもの出生を防止する目的で出生前診断を行ってはならない。

2 配慮義務

 国、地方公共団体は、妊娠・出産しようとする人に対して、障害をもつ子の子育てに関する情報を提供し、必要な援助を実施しなければならない。
 医療、教育、社会福祉事業者は、その事業に従事しようとする者への教育に、障害への偏見を取り除くプログラムを含めなければならない。
 医療従事者は、障害に対する否定的な言動で妊産婦とその家族を傷つけることのないよう、配慮しなければならない。

【補足説明】
 本事項については、障害の有無によって命が価値づけられることを否定することが、基本的な考え方です。[女性の生殖における権利を制限したり、処罰することは意図していません。また、胎児を法律上の人権享有主体とみなす意図もありません。]
 産む産まないを、それぞれの個人が自己決定することは保障されねばなりませんが、それは、男女の産み分けや、障害をもつ胎児の排除を自己決定することとは、異なります。
 産むと決定することが、本人及び親への不利益や非難につながってはならないし、生きている障害をもつ人への差別につながる論理が生まれてはなりません。
 障害は、その存在自体が問題ではありません。障害をもつことによって生じる生活上の困難さが問題なのです。人生の出発点を、障害を理由として、一方的に閉ざされることに対して、強く異をとなえます。

註:(2)の文中の「出生前診断」は、障害をもつ子どもの出生を防止する目的に限定せず、全ての出生前診断をさします。ほとんどの妊婦が受けている、障害を見つけることまで意図していない診断でも、障害が発見される可能性があります。それを受けたくないと考える妊婦あるいはカップルに、強制してはならないという意味です。


 SOSHIRENとしては、この「対案」作成にあたってとても悩みました。これを積極的に法律にしたいというよりも、「障害者差別禁止法」にどうしても「出生」に関連する項目が必要ならば、このように書くしかないのではという気持ちで作りました。これがベストなのか、これはこれで別な問題が生じないかなど、まだ悩み、考えをめぐらせています。  作業チームは、10月13日の会議でこれを検討し、11月に開かれる会議でさらに検討するとのこと。その会議では、要綱案全体の見直し作業をするそうす。
 ヒアリングを経ても、作業チームとSOSHIRENのみぞは深いように感じられ、「対案」がどこまで受け入れられるかは未知数です。
 しかし作業チームのメンバーからは、一致できる部分と一致できない部分を確認しあいながら、これからも一致点を拡大する方向で議論を続けていければ、というメッセージも来ています。とても難しい局面ではありますが、悩みがいのある問題ともいえます。めげず、諦めずにいきましょう。

 現在、障害者政策研だけでなく日本弁護士連合会も、障害者差別を禁止する法律の制定をめざしています。また、障害者差別禁止法(JDA)を実現する全国ネットワークが、独自の案は持ちませんが法の成立を進める活動を行っています。
 今年6月、与党3党の「障害者基本法改正プロジェクトチーム」が、障害者基本法の改正案をまとめました。7月に国会に提出され、継続審議となっています。これはほんとに小手先の「改正」。実効性のある法律を求める障害者団体は、これで終わらせたくないと、基本法改正に反対しています。今後、政策研や日弁連の案が検討される機会も増えてくるでしょう。障害者と女性の両方に関わる「出生」の問題をどうしていけばいいのか、これを読んだ方は、ぜひ議論に参加してください。
(米津)