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【本の紹介】

荻野美穂著『中絶論争とアメリカ社会―身体をめぐる戦争』
岩波書店・本体価格3600円・2001年4月24日発行

 オススメの本です!
 94年に『生殖の政治学――フェミニズムとバース・コントロール』を出版し、女たちが避妊を獲得するまでの歴史と、そこに込められた思想を、たくさんの文献をもとに提示してくれた荻野美穂さんが、今度は中絶についての本を書いてくれました。
 舞台はアメリカ合州国。19世紀前半、堕胎は犯罪とみなされていなかった頃の情況から始まり、誰が、なぜ中絶を禁じようとしたのか、そして避妊をすすめようというフェミニストたちの中絶に対する否定的な見方、非合法になって女たちがヤミ中絶せざるをえなくなった「最悪の時代」・・・・・・と歴史的な背景が記されます。
 そして、合法化への長い戦いがあり、あの有名なロウ判決へとつながっていく。そこで、フェミニストたちは、何を要求したのか、なぜ「権利としての中絶」という、(私たちから見ると)ストレートな主張ができたのか。そして、胎児に障害がある場合の中絶に関して、日本の運動の感覚とはなぜこうも違うのか・・・・・・・これらの疑問と謎が、次第に明らかになっていくのです。

 さらに、中絶クリニックの活動を妨害したり、襲撃したり、あげくには中絶手術をしている医師を射殺するまでに激しい「プロチョイス(中絶擁護派)」と「プロライフ(中絶反対派)」の対立は、何を意味しているのか。荻野さんは、中絶は是か非かという論争の水面下には、「女という性をどう定義するか」という問題と、「人間や生命の価値をどう解釈するか」というテーマが存在しているのではないかと言います。そして、前著と同様、たくさんの英文資料を駆使して、この問いを解き明かしていきます。

 というわけで、ミステリ小説を読むような面白さを感じながら、私はこの本に一気に読んでしまいました。実は、これまで新聞やテレビで中絶に関するアメリカのニュースを見聞きしても、今ひとつ、ふにおちなかったり、背景がよくわからなかったり、「ほんまかいな?」と記者の記述に疑問を抱くことがあったのです。そのモヤモヤした気分や疑問が、この本を読んで晴れた気分です。

 日本の私たちの運動で、たとえば優生保護法という法律で中絶が「合法化」されていたために、そして70年代、ウーマンリブや障害者解放運動が盛り上がった時期に「胎児条項新設」「経済的理由の削除」という改悪案が出たことによって、両者の運動が出会い、衝突し、対話し、共闘するようになったという歴史的背景があったように、アメリカではどのような歴史的背景、歴史的な偶然と必然があったのか、とてもよくわかるのです。

 最後の章では、「自己決定権」というアメリカの中絶擁護派=フェミニズムの中心概念について「なにかが間違っている」と感じるアメリカのフェミニストたち(障害をもつフェミニストが多い)の意見を紹介しています。選別的中絶に関する議論は、いまの私(たち)が、まさに直面している問題とオーバーラップします。「アメリカのフェミニスト=選別的中絶には触れない、あるいは肯定的」に対して批判が生まれていることも感じられます。
 そして「日本へのまなざし」という項が続くのです。出口の見えない中絶論争のなかで、異文化における中絶の扱われ方から、アメリカの行き詰まりを乗り越える発想を探ろうという日本研究者の仕事を紹介しています。
 そこで、日本の経過、とくに70年代以降の障害者と女性をめぐる優生保護法反対運動にも触れています。このあたりの記述は、もろに私たち阻止連のやってきたこと、苦闘していることにかかわります。(本書269ページ以降、とくに、注の31ページ(53)など)。このテキストをもとにして、みんなと話し合いたい欲望がかきたてられました。立岩真也さん、加藤秀一さんらの本の学習会に引き続いて、荻野さんの本の読書会、一緒にやりませんか? 

 このところ、知的頭脳部分をあまり刺激してなかった私を、ひさしぶりに学習会や読書会への意欲にいざなってくれた、うれしい1冊です。荻野さん、ありがとう!
追記:
注の20ページでは、なんと91年の「阻止連ニュース・女のからだから」も参照されていました。アメリカからのビラを翻訳掲載した号。なんか、海のむこうでも、こっちでも、わたしたちみんな、がんばってきたんだよね・・・という感慨にひたってしまいました。 

『生殖の政治学』は、山川出版社・本体2600円・94年発行です。まだ読んでない人は、合わせて読むと面白さがぐっとアップします。
(by ゆかこ)