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【オススメ映画】

リトル・バーズ――イラク戦火の家族
撮影・監督:綿井健陽 製作・編集:安岡卓治


 日本人が人質になると、思い出したようにマスコミに流れるイラク報道。イラクへ派遣されたあと、自衛隊がサマワで何をしているのか、テレビや新聞で具体的に知らせた内容は、隊員たちの食事内容くらいではないかしら?

 この映画は、今の日本のマスコミが決して伝えない、イラクの現実を映し出している。
 アメリカの空爆が始まる数日前のイラクの日常風景から映画は始まる。サッカーに興じる少年たち。まだよちよち歩きの子にボールをけらせようとして微笑む大人たち。街頭インタビューでは、日本について「アメリカから大きな爆弾を落とされた、ヒロシマとナガサキだ」と語る人をはじめ、日本人に対して好感を抱いている人々が多い。と同時に「なぜいま日本は、アメリカの側に立っているんだ?」と問いかけるイラク人たちも。
 そして、空爆開始。その瞬間の映像は、テレビで見た覚えがある。監督の綿井健陽はフリージャーナリスト集団「アジア・プレス」に所属し、彼がとった映像は、イラク空爆後、テレビで何回か使われている。それは素材として部分的に使われていたのに対し、この映画では、テレビで放映された数秒間のシーンの背後にある、イラクのふつうの人々(軍人や兵士、政治家や宗教指導者ではないという意味)の暮らしが、戦争によってどのように破壊されていったのかを、ていねいに描いている。

 突然の爆撃で子どもを殺され、泣き叫ぶ親。足や手、視力を失い、嗚咽する人々。
 この冬、日本では60周年ということで、東京空襲の被害体験の発掘がなされたが、一般市民の虐殺という意味では、イラクの人々と、60年前の日本人とが重なってみえる。アメリカはいつだって、独裁政権を倒してその国の市民を解放してくれるし、そのためには空爆や原爆や劣化ウラン弾やクラスター爆弾が必要だし、一般市民が死ぬのはやむをえないと考えている。
 アジアを侵略した国でありながら、そのアメリカから攻撃を受けたから、あるいは軍隊を持たないという日本国憲法によって、さらには日本製品=経済力によって(経済侵略だとも言えるが)、日本へのプラスイメージが浸透していたのではないだろうか。ところが、イラクへの空爆直後、そのイメージは崩れ去る。

 空爆の翌日、「カメラをとるな」と拒絶する市民たち。「ユー アンド ブッシュ、お前たちは一緒にイラクを破壊しているんだ」とカメラに向かって片言の英語で叫ぶ男性。やがて、日本から派遣されてきた自衛隊。自衛隊員のパフォーマンス(まさに食事をするところ)とそれを取り囲みカメラフラッシュを浴びせるマスコミの、愚かで情けない姿も、映画はたんたんと映し出す。
 三人の子どもを殺された30代前半の父親と母親、生き残った子どもたちとの暮らしも追っていく。子どもたちのお墓で嘆き悲しむ姿とともに、子どもの宿題をみてあげる父親や「きょうおかあさんお弁当つくるの忘れちゃたんだよ」という娘の会話に、わたしたちと同じ日々の暮らし、それを奪う戦争のむごさが伝わってくる。

 一方で、戦車の上から銃を構えて人々を威嚇するアメリカ兵をも映し出す。バクダット陥落の日、市民に歓迎されると思っていたのに、歓喜の声は聞こえず、「きょう何人の子どもたちを殺したの?」という英語の紙を手にして抗議する女性の姿をみて、怪訝な表情をする兵士。「これまでのことには感謝するから、もうアメリカに帰ってくれ」話をしようとするイラク人男性に、「道路の向こうまで下がれ」と命令する兵士。
 マイケル・ムーアが「ボウリング・フォー・コロンバイン」や「華氏911」で浮き彫りにしたように、どのような若者がイラクに兵士として送られているのかを考えたとき、暗澹たる気持ちになる。

 爆撃機や戦車やヘリコプターの轟音、救急車のサイレン、人々の泣き叫ぶ声があふれるこの映画の中に、ときおり聞こえてくる美しい鳥の鳴き声。そのホッとする静けさが、いかに尊いものか、ありがたいものなのかを痛感する。三人の子を殺された父親アリ・サクバンは、「戦争で人を殺すために、人間は生まれてきたわけではない」と語り、生き残った娘には「みんな、鳥になって天国で飛んでいる」と話す。
 とにかく、マスコミでは報道管制がひかれつつある今の日本で、こうした映画を観られることに、まだしも希望を感じたい。そして、そのあいだに、どうにかしないと・・・・・・。
(ゆかこ)
【上映および詳細は下記へ】
http://www.littlebirds.net/index.html