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名古屋市立大が申請した着床前診断に関する意見書
受精卵の着床前遺伝子診断の実施には反対します

2003年9月26日
日本産科婦人科学会御中
日本産科婦人科学会倫理委員会御中
日本産科婦人科学会倫理審議会御中


 名古屋市立大学医学部産科婦人科の鈴森教授が、貴会倫理委員会に、受精卵の着床前遺伝子診断の実施に関する審査の申請をしたと聞きます。これまでも私たちは、貴会にこの診断技術の実施を認めないよう要望してきました。残念ながらそれは入れられませんでしたが、今回の申請を承認されないよう、あらためて申し入れます。

 私たちは、1982年、当時の優生保護法が人工妊娠中絶を禁止する方向に改悪される動きに反対して活動を始めました。女性の性と生殖に国家が介入する人口政策・優生政策を批判し、その手段である刑法堕胎罪と優生保護法・母体保護法の廃止、リプロダクティブ・ライツ(性と生殖に関する権利)の確立を求めて発言しています。とともに、障害者の出生を阻み、性や子供を産み育てることを奪ってきた優生政策は女性に対しても「健康な子供だけを産め」という圧力であると捉え、胎児条項の導入や選別的中絶につながる出生前診断の技術開発に、女性の立場から反対してきました。子どもをもつかもたないかによって差別を受けないことと同様に、生まれてくる子の障害の有無によって差別を受けないという保障がなければ、リプロダクティブ・ライツは成立しないと考えるからです。

 今回この技術を受けようとするカップルは、父親となろうとする方ご自身が障害をもち、技術を使わない場合、生まれる子が同じ障害をもつ可能性があるのだと思います。実施に反対する声もあるなかで、この技術を受けようと手順を踏んでこられるには、それなりの強い動機があるのだろうと想像できます。治療の困難、社会的支援の不足、逆に少なくない偏見、子をもとうとする強いお気持ちなどを考えるとき、この方たちに対して受精卵診断をしないで欲しいと言うことに、私たちも躊躇いがないわけではありません。それでも反対する理由は、次のとおりです。
  1. この技術を希望する個々のカップルにどんな事情があるとしても、受精卵や胎児の選別が行われてよいと言うことには、ならないと思います。

  2. どれほど事前の審査を徹底するとしても、着床前診断による受精卵の選別が実施されて1件2件と数が増えていくとき、診断を受けるカップル個々の事情を越えて、社会的な変化が必ず生じると思います。生まれる子を選別する出生前診断が、通常行われる医療の領域に一歩近づくでしょう。その結果、"障害は不幸""障害児は生まれないほうがいい"という認識が、より強まることが予想されます。

  3. 着床前診断は、人工妊娠中絶を伴わないので女性の心身に負担が軽いと言われますが、体外受精と受精卵の段階であれ選別を行うことの負担が、軽いとは思えません。
 生殖にかかわる技術の開発が、障害をもって生きること、障害をもつ子の出生、そしてリプロダクティブ・ライツのあり方を難しいものにしつつあります。受精卵の着床前遺伝子診断の実施は、障害者に対する差別、女性に対する抑圧をより強めるだろうと予想されます。残念ながら、障害に対する否定的な見方の方がこの社会では圧倒的に強いからです。私たちは、障害とともに生きることを徹底的に支援する政策が行われ、障害に対する肯定的なメッセージが否定的なそれを上回ることを求めています。そうでない以上、受精卵の着床前遺伝子診断の実施には、反対せざるを得ません。

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