Top SOSHIRENとは 優生保護法とは 堕胎罪とは 資料・法律 オススメ SOSHIRENニュース
資料・法律


日本産科婦人科学会御中

新型出生前診断に関する意見

私たち「SOSHIREN 女(わたし)のからだから」は、女性のリプロダクティブ・ライツの確立に取り組み、産むか産まないかを国家が管理・強要する人口政策に反対し、女性の選択が尊重されるべきだと主張してきました。しかし、いま出生前検査・診断によって生じている事態は、選択の幅の拡大とは思えません。「あなたが決めて下さい」と問題を個人に転嫁して、産もうと思っていた妊婦に苦悩を強いることになると考えます。
最近「新型出生前診断」の名で報道されている母体血中胎児DNA診断についても、私たちは切実な関心と大きな懸念をもっています。以下に、意見を書きます。

新型の検査が一般に広がり、マススクリーニング化することを憂慮します

9月末からの報道は、新型検査を「精度99%、母体と胎児に危険がない」と印象付けました。対象はハイリスクの妊婦さんに限ること、確定診断に羊水検査が必要であることが報道されるようになったのは、つい最近のことです。情報が正確に伝わらなかったことも問題ですが、出生前の胎児の検査について、「誰でも受けられる」あるいは「受けるべき」というメッセージになった畏れがあります。
新型の検査は、リスクの低い妊婦さんでは陽性の的中率が低いこと、また、対象となる障害に治療法がないことから、妊婦、新生児が必ず検査を受けるマススクリーニングには、なり得ないとの意見も聞きます。にもかかわらず、胎児に障害があることを想定した検査を多くの妊婦さんが受けることが常態化すれば、結果としてマススクリーニングと同じ意味をもつのではないでしょうか。

障害の有無に関わりなく、子育てを支援する態勢を

出生前診断に関する議論では、検査前の充分な説明と妊婦さんの理解が必要であること、結果が陽性であった場合に、妊婦やパートナーの選択を支えるカウンセリングの重要性があげられます。しかしそれでは、問題を妊娠・出産する個人の領域に押し込めてしまいます。検査技術が開発され実施される背景には、「障害は不幸」、「女性は健康な子を産むべき」といった社会的偏見があります。また、社会サービスや支援が不足している現実を、無視すべきではありません。
こうした現状で新しい検査が導入されれば、障害とともに生きている当事者に、自らが否定されるという不安を与えます。また、検査が一般に広がれば、検査対象の障害に限らず、何らかの障害をもつ子を育てる親、とくに母親は「なぜ、検査を受けなかったのか?」という視線に曝されるのではないでしょうか。そうした視線が、これから子どもがほしいと思う人たちに、障害をもつ子の出産を断念させる圧力となるのではと憂慮します。これは、リプロダクティブ・ライツの重要な一部である、どんな状態の子どもでも安心して妊娠・出産する権利を侵害します。
今の日本には、生まれる子に障害があってもなくても、社会が迎え入れて子育てを支援する態勢こそが必要です。障害者への偏見、子育て支援が不十分であるという背景に、新しい検査が加わることで、障害をもつ子の出産回避へと人々を誘導することがあってはなりません。1996年、優生保護法の目的から、優生学的理由を削除して母体保護法へと改正した意味を無化することになりかねないと私たちは考えます。
日本産科婦人科学会は、この検査導入の是非を判断する材料として、こうした社会的背景と、そこに検査が及ぼす影響を重視すべきです。

新型検査の導入は避けるべきと考えます

以上のことから私たちは、新型検査の導入は避けるべきと考えます。
どうしても導入する医療施設がある場合は、日本産科婦人科学会は、厳しい指針をもって対応してください。
例えば、遺伝カウンセリングでは検査希望者に、検査の説明とともに、想定される障害とそれをもった人の生活について、偏りなく充分に伝えてください。伝えた情報が理解されたことを確認できるように、また、受ける人が不安や戸惑いを充分に語れるよう、落ちついて話せる場と時間を保障するべきです。そのために遺伝カウンセラーを専門職として、医療のなかに位置づけることも必要でしょう。遺伝専門医、遺伝カウンセラーの養成には、障害をもつ人と直接かかわり、彼ら彼女らの暮らしぶりを知るための課程を設けてください。これは、妊娠・出産に携わる医療者の養成でも同様です。
 日本産科婦人科学会は公共的な責任を担う団体として、人権にも関わる大変重要な事柄に取り組んでおられます。しかし、2月に発表された出生前診断実態調査、4月に発表された医師向けのルール作りがその後どうなったのか、12月15日までにまとめるという指針は、何をもとに誰がどのように検討しているのか、市民からは全く見えません。 新型の検査導入によって引き起こされるであろう問題について、貴学会がどのように検討され決定されたのか、経過も含めて、透明性をもって周知されるよう期待します。

最後に、11月13日に日本産科婦人科学会が開催される公開意見交換会で、私たちに発言の機会をいただけるよう、お願いいたします。

2012年10月18日
東京都新宿区富久町8−27ニューライフ新宿東305
電話・FAX 03−3353−4474
SOSHIREN女(わたし)のからだから